芸大講座「沖縄民俗文化の構造」照屋 理(名桜大学准教授)

沖縄における信仰文化・民間習俗

⒈ 神はどこにいるか?
① 渡名喜島シマノ―シ
神はニライカナイ(海の向こう)からやってきて、白衣にサージやンチャグイ
を頭に被ったノロ(神女)を通して、人間と交流し、吉凶判断や予言などを伝える。
(シャ-マニズム)

② 大里アマグイモー(雨乞いの森)
自然界のあらゆる物に神が宿ると信ずる精霊信仰。森、岩、川など至る所に
御嶽を設け祀っている。(アニミズム)

大里の雨乞いの祈り

竜王加那志雨たぼり
雨降て養て殻たぼり
シンシンマンマン雨たぼり

竜王加那志雨たぼり
雨欲しやぬる願やびる
シンシンマンマン雨たぼり

雨や天からふんすゆる
殻や地から湧上ゆる
シンシンマンマン雨たぼり

白ちゃにーや水欲しゃい
赤ちゃにーや雨欲しゃい
シンシンマンマン雨たぼり

雨川庫裡や押し上げて
水川庫裡やちち開けて
シンシンマンマン雨たぼり

③ 宮古島パーントゥ
パーントゥは、全身を蔓草で覆い、悪臭放つ真っ黒な泥にまみれ、見るも
恐ろし気な真っ黒なお面を被り地中から現れて、誰彼見境なく泥を塗りつけていく。
パーントゥは大地の神様なので、その泥は嘉例(かりー、縁起物)として
皆喜んで塗りたくられる。子供にとってはトラウマになりかねないのだが
親は子供の無病息災を願って泣きわめく子供の顔に泥を付けてもらうのだ。

⒉ 身近なおまじない
① 幼児が夜間外出する時
アンマー クートゥ
ターガン ンーダン
ウフナービ カンジャー
(お母さんだけ見て魔物は見ないように!)

② ムカデに噛まれたら
コッコレーコ ケッケレーケ
(ムカデの天敵にわとりの鳴き声でムカデを追い払う)

③くしゃみをした時
クスケー!(悪霊に対してクソ喰らえ!)

⒊ 本当は怖い鬼餅伝説
ムーチー」は旧暦⒓月8日、月桃(サンニン)の葉に包んで蒸した餅を供えて
家族の健康を祈願する行事。8日の朝早く、サンニンの煮汁は鬼の足を焼くため
門口にかける。餅の食べ殻は魔除けとして十字に結わえて軒下に吊るす。

「ムーチー」の由来
昔、首里金城嶽の上に兄と妹が住んでいた。妹が嫁いでからは、兄はひとりぼっちで
大里の洞穴を棲家とするようになり、夜な夜な子供をさらってきてはその肉を喰う鬼に
なってしまった。心を痛めた妹は兄とはいえ鬼となった兄を退治しなければならない。

妹は兄が好きだった餅を作り、7本は餅の中に鉄を忍ばせ、7本は自分用に米
だけのものを作り、大蒜7本と共に準備して、兄にご馳走するからと、金城嶽へ
誘って二人で餅を食べ始めた。

兄は鉄が入った餅を四苦八苦して食べるのだが、平気な顔をして餅を喰う妹を見て、
随分お前の歯は丈夫だねと言いながら妹のはだけた着物の奥に目をやって、お前の
下の口はなぜこんなに赤い血がついているのだと問う。妹が答えて、「上の口は餅を喰う
口で、下の口は鬼を喰う口なのよ!」と言うや、はだけた着物を開いて迫ったので、
鬼は恐れをなして崖から落ちて死んでしまった。(「定本琉球国由来記」1713年)

以来、金城御嶽はホーハイ御嶽と呼ばれ、月桃に包まれた餅はホーハイムーチー
よばれるようになった。ホーハイとは女陰をあらわにするという意である。

昔、沖縄では、火事になった時、「火事だ!火事だ!」とは叫ばず、
「ホーハイ!ホーハイ!」と叫んだらしい。これは、台所に祀られている
「火ヌ神」が女神で、あからさまに叫ぶと恥ずかしがって、火を鎮める
からと信じられていた。

⒋ 沖縄の性器信仰
沖縄には各地に男根と女陰をかたどった偶像を祀った御嶽が存在する。
生殖器は生命の源であり、聖なるものとして賛美する。
八重山民謡の「ぽすぽう節」では、女性の生理ですら美しく歌っている。

〽美童ボスポー のーボスポー(美童の下着はどんなものだろうか)
紺染みぬ梅ぬ花       (紺染めの梅の花模様だよ)
中ぬ紅型見たんなビラマ   (中の紅型模様を見たかいお兄さん)

大和では女性の生理は不浄なものとして、寺社や土俵への女人禁制、「女の家」
と呼ばれる月経小屋に隔離するなど忌避するのに対し、沖縄では性を大らかに
美しく表現している。

ペーチン